トピックス

数学科

ゼータ関数の魅力

佐野 昂迪

  18世紀、オイラーが活躍していた時代に、バーゼル問題という問題がありました。それは「1+1/22 +1/32 + …を求めよ」というものです。オイラーは苦心の末、この値がπ2/6になるということをつきとめ、一見何の関係もなさそうな円周率πが現れることにいたく感動したと言われています。19世紀の数学者リーマンは、上のような和をゼータ関数 ζ(s)=Σ n=1 1/ns の値として考え、複素解析の手法を用いて素数の研究を行いました。それ以後、素数を主な研究対象とする整数論において、ゼータ関数の研究が活発になっていきました。ゼータ関数の研究は、現在でも整数論において中心的な位置を占めています。

 さて、いま2つの異なる整数n,mをとって、ゼータ関数の値ζ(n), ζ(m)を考えるとします。この2つの値は独立に考えるべきものでしょうか? 実は、不思議なことに、ゼータ関数の異なる整数点での値は互いに密接に関連し合っています。簡単な例を挙げましょう。負の奇数に対してゼータ関数の値は有理数になります。nとmを負の奇数とし、pを素数とします。このとき、n-1がp-1で割り切れず、かつn-mがp-1で割り切れれば、ζ(n)-ζ(m)の分子はpで割り切れるということが知られています。例えば、n=-3,m=-9,p=7のとき、ζ(-3)=1/120,ζ(-9)=-1/132が知られていますが、ζ(-3)-ζ(-9)=7/440の分子は7で割り切れています。このことは19世紀の数学者クンマーによって発見され、「クンマー合同式」と呼ばれています。このことの発展として、20世紀半ばに久保田とレオポルトがゼータ関数の「p進数の世界」における類似である「p進ゼータ関数」を発見しました。リーマンが考えたものは「複素数の世界」に住むゼータ関数ですが、久保田とレオポルトは「p進数の世界」という全く新しい世界に住むゼータ関数を発見したのです。

 リーマンのゼータ関数と久保田・レオポルトのp進ゼータ関数は多くの点で類似しています。一昔前まで、これらは単なる「アナロジー」で済まされていたようですが、1990年代に加藤和也氏は、ゼータ元という「ゼータ関数の化身」とも呼ぶべきものの存在に関する壮大な予想を提出し、p進ゼータ関数をゼータ元の一種として捉えました。この予想は「玉河数予想」と呼ばれており、現在も大部分が未解決の大予想です。

 最近になり、それまで個別の現象や単なるアナロジーだと思われていた実に様々なことが、玉河数予想から統一的に新しい視点で解釈されることがわかってきています。その意味で、玉河数予想はゼータ関数の値に関する究極的な予想であると言えます。しかしながら、玉河数予想はエタール・コホモロジーやp進ホッジ理論といった現代整数論の大理論が随所に用いられる抽象的で難解な予想であり、またそのあまりの壮大さのため多くの研究者から敬遠されているのが現状です。

 私は、玉河数予想の具体的な帰結を追求したり、よりわかりやすい問題に帰着したりするなどして、様々な側面から玉河数予想を理解しようと努めています。抽象的な玉河数予想を具体的な問題に掘り下げていくと、思いがけず、別の動機で研究されていたものがぴったり同じ形で現れることがあります。そういうとき、玉河数予想は凄い、ゼータ関数は実に深い、そして、不思議だ、と思わずにはいられないのです。バーゼル問題に始まるゼータ関数の魅力は、まだまだ発掘され尽くされていないのです。


物理学科

凝縮系の量子液体相を電流ゆらぎ測定と場の理論から探る

小栗 章

 金属や半導体などの凝縮系の電気伝導,磁性,光応答などの性質は,物質中の膨大な数の電子が形成する量子力学的な状態によって決まります.結晶の構造や電子の濃度,さらに実験的に外部から加えた磁場や電圧などの状況によって,超伝導,磁気秩序相,種々の量子液体相などの多彩な状態が実現されます.量子液体相は電子が斥力のため互いに避けあい強く相関した状態で,代表例として近藤効果の低エネルギー状態があります.1964年,近藤淳は金属中に導入された不純物の電子スピンとその周りの伝導電子の間の多重散乱が低温で顕著に増大することを発見しました.その後,国内外の研究を通して不純物と伝導電子の量子状態の特徴は,Landauが現象論的に提唱したFermi流体の拡張によって記述でき,ゼロ次元の場の理論と等価な定式化によって説明できることが分かりました.最近では,半導体などの微細加工技術を駆使して作成された量子ドットやナノ・スケールの物質において新たな発展を見せています.

 我々は大阪大学理学研究科小林研介教授の実験グループと共同して,カーボンナノチューブで作成された量子ドットにおいて実現される軌道とスピンによる4重縮退した内部自由度を持ったSU(4)近藤効果の非平衡状態の性質を調べています(図1).小林グループでは,世界有数の高精度な非平衡電流ゆらぎの測定が可能であり,電気伝導度・ショットノイズの磁場依存性から,新奇なSU(4)対称性をもった量子液体相から対称性の低いSU(2)相へ連続的に移り変わることを観測しました.我々の研究室では,大学院生の寺谷義道(D2)さんを中心に数値くりこみ群という高精度なゼロ次元量子多体系の非摂動的方法などを用いて理論的な検討を行いました.その結果、ナノチューブ周りの電子軌道とスピンのゼーマン分裂が同程度の場合には,磁場中でも2重縮退が残り磁場の増大とともに量子ゆらぎの大きいSU(2)対称性を持ったFermi流体へ移行することが説明できることが分かりました(図2).ここでは,電流ゆらぎ=ノイズが信号を隠す邪魔物ではなく,相関の強い多電子系の量子力学的な状態を解き明かす重要なシグナルとして役割を果たしています.我々はこのような量子効果の全貌を明らかするために,さらに研究を進めています.

化学科

医用材料として使える金属錯体
                −タンパク質ハイブリッド分子の開発

中島 洋

 金金属錯体とは、金属イオンとその金属イオンに結合する有機分子(配位子)で構成される分子であり、金属と配位子の組み合わせにより無数に創り出すことができます。現在では、様々な機能や性質を持った錯体を分子設計/合成することが可能であり、工業触媒やエネルギー変換素子など数多くの分野での利用が進んでいます。医薬や医用材料への応用も試みられていて、シスプラチン呼ばれる白金錯体は、抗ガン剤として広く用いられています。ただし人体が許容可能な金属イオンの種類や量の範囲は比較的狭く、医用に役立つ機能や性質があっても、強い毒性のために使えない錯体も数多く存在します。私たちの研究室では、機能的に有用な錯体を生体由来のタンパク質に組み込むことで生体適合性を高め、医用材料への応用を目指しています。またその際、タンパク質がもともと有する性質と錯体の機能の相乗効果を狙い、錯体あるいはタンパク質のみでは実現できない物質の開発にも力を入れています。一例として、ここでは光応答性一酸化炭素放出錯体を鉄貯蔵タンパク質に取り込み、体内に投与した後に光照射で一酸化炭素(CO)を放出可能な物資の開発を挙げます(図参照)。COは、一般に中毒性のガスと認識されています。しかし近年の研究では、生体自らがCOを産生し、体内機能の調製に利用することが分かってきました。この知識の応用としてCO医療が提案されており、実現に向けてCOを生体内で自在に放出できる物質の開発が望まれています。COを配位子として有する金属錯体はその有力な候補ですが、生体内での安定性の問題やCO放出後に残留する金属イオンの毒性の問題があり、生体を対象とした研究には至っていません。私たちの研究室では、生体元素である鉄イオンを使い、赤色レーザーポインター程度の光でCO放出が可能なCO錯体を開発しました。ただし生体元素とはいえ、大量の鉄化合物をそのまま生体に投与することは危険です。そこで、この錯体を我々の肝臓などに多く見られる鉄イオン貯蔵タンパク質フェリチンに封入し、フェリチン内部からCOを放出する仕組みを開発しています。このハイブリッド物質では、CO放出後に錯体が鉄イオンに分解し、その後フェリチンの鉄貯蔵機構によって完全に無毒化されるような分子設計を施しています。現在は、このハイブリッド分子からのCO放出性能を調査中であり、近い将来、細胞や生体組織を対象とした研究に展開する予定です。

生物学科

魚類の多様な繁殖戦略とその進化の解明を目指して

安房田智司

魚類は、脊椎動物の中でも最も多様な繁殖生態を持つ動物の一つです。私は、魚類を対象に、野外での行動観察に重点を置き、水槽実験、親子判定、生理学実験など様々な手法を用いて、魚類の多様な繁殖戦略の解明を目指して研究しています。

 近年、私は海産カジカ科魚類(世界に約300種)を研究対象としてきました。カジカの知名度は低いですが、実にユニークな繁殖生態を持っています。魚類の多くは体外受精ですが、海産カジカには陸上動物のように交尾をする種類がいます。また、海産カジカの中には雄または雌が卵の保護を行う種がいたり、ホヤなどに産卵したりする種がいます。このようにユニークな生態を持っているにも関わらず、寒い海に生息する種類が多く、生態は謎に包まれたままです。

 これまで、海産カジカの雄と雌の繁殖戦略を研究してきました。雄では精子に注目し、国内外で採集した24種のカジカの精子を調べました。興味深いことに、カジカ科魚類の精子は同じ科にも関わらず、多様な形態をしていました。これらの進化要因を検討した結果、精子の鞭毛長や游泳速度には卵の保護様式の違いにより生じる精子競争レベルの違いが、精子が運動性を持つ環境と精子の頭部形態には受精様式(交尾型、非交尾型)が、大きく関係していました。本研究により、交尾行動と精子競争が精子の形態や運動性に強く関係することを初めて示したことになります。

 カジカ科魚類の中には、雌がホヤやカイメンに卵を預ける珍しい産卵行動「卵寄託」を行う種がいます。野外調査と遺伝解析の結果、佐渡島沿岸に同所的に生息する卵寄託カジカ8種は、種特異的な宿主選択をすること、また、宿主の違いによって産卵管長が適応進化したことが分かりました。さらに、太平洋と日本海の両方に生息する種を調べた結果、同種でも宿主の種類やサイズに応じて産卵管形態が変異することが示されました。種間だけでなく種内で繁殖に関わる形質が大きく異なる例は、海産魚では初めての発見であると考えられます。

 私は2017年1月に動物機能生態学研究室に着任しました。同研究室の幸田正典教授は大学院時代の指導教員であり、12年ぶりに大阪市立大学に戻って来たことになります。今後は幸田教授や学生らと魚類の行動生態学研究や認知研究をさらに発展させて、魚類生態の謎を一つ一つ解き明かして行く所存です。


      

地球学科

密林下の古代遺跡を可視化する

原口 強

 文部科学省・科研費・新学術:古代アメリカ比較文明論(平成26〜30年度:561,300千円)に参加し、高精度3次元地形モデルから新たな遺構を探る研究を行っています。最新の航空レーザー測量(図1)では、樹木の下の地形の可視化(図2)が可能となっています。グアテマラ・マヤ文明・セイバル遺跡で取得した400km2の数値地形データから赤色立体画像が作成されました。その結果、遺跡中心(図3)で密林下の石灰岩溶食谷地形や遺構(図4)が明瞭に可視化されました。全域では1万か所以上の新たな遺構が画像から抽出され、現地確認調査(図5)で多数の土器片(図6)が収集され遺構の可能性が高いと判断されました。これらの情報は電子地図データとして整理1)され、今後、現地の遺跡研究の基本データとなっています。


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